函館市東部に位置する恵山地区の沿岸は、太平洋と津軽海峡、双方の海流がぶつかりあい、タラやホッケの好漁場となっています。ホッケは漢字で魚へんに「花」と書くように、沖合の海中で花を咲かせるように大きな群れで回遊する魚です。恵山の前浜では、回遊せずに険しい地形の岩礁や磯に根づく特別なホッケが生息していて、これを「根ボッケ」と呼んでいます。一般に値段の安い大衆魚とされるホッケは、鮮度が落ちやすく浜値も上がらない魚でしたが、この浜では漁師たちの発想の大転換によって、鮮度抜群で付加価値が高い「海峡根ボッケ バキバキ」が誕生しました。

わずか2時間ほどの網入れで、水揚げから出荷までを迅速に

恵山地区尻岸内（しりきしない）の根ボッケは、刺し網によって漁が行われます。船は昼前に出港して網を入れ、いったん帰港。昼食の後、すぐさま網揚げに再び船を出します。網が入っている時間はわずか2時間ほどですが、網を巻き上げると35～40センチほどの立派な根ボッケが次々と揚がってきます。網にかかっている時間は短時間なので、魚の鮮度は抜群。すぐさま帰港し、網から外して氷水の中へ。荷捌き場に運ばれて、発泡スチロール箱に丁寧に並べられ、一尾ずつブランド魚の証となる緑色のタグが付けられます。その日のうちに函館市水産物地方卸売市場へと出荷し、翌朝のせりにかけられて、早いものは網に掛かってから1日程度で、東京の料理店にも届きます。もちろん市内の各鮮魚店、スーパーなどに並ぶこともあります。

量より質への大転換が生んだ“バキバキ”のホッケ

一般的に定置網や巻き網で大量に水揚げされるホッケは、多くが干物などの加工用として流通します。尻岸内の浜では、以前から脂乗りがよい根ボッケを鮮魚として出荷していましたが、高値でも市場に求められるものに変えていこうと話し合い、より鮮度が高い状態で出荷できるように発想を大きく変えました。網入れの時間は、従来なら13時間留め置いたものをわずか2時間へと短縮。一度の水揚げ量は減りますが、長く網に掛かった状態で魚が傷むことがなくなり、鮮度が大きく向上しました。コスト増を覚悟のうえで、水揚げ後の市場までの鮮度保持にも力を入れて、2001年から「海峡根ボッケ バキバキ」の名で出荷を始めました。「バキバキ」とは活きの良さを表す浜言葉。魚を手で持つと身が垂れずにピンと立つほどバキバキしているという意味です。焼き魚などに調理しても一夜干しに加工されても、新鮮なものはひと味違います。函館市内の料理店では、鮮度のいい魚ならではの刺身にして提供する店もあるほどです。

生産者から

漁模様が回復。
「バキバキ」のブランドは健在です

高島 信幸さん

幸栄丸

漁模様が回復。
「バキバキ」のブランドは健在です

えさん漁協の「尻岸内刺し網ほっけ部会」の代表を務めています。20年程前、市場に出向いてニーズを実際に見聞きし、仲間と話し合って漁や出荷の方法を改め、「バキバキ」ブランドを立ち上げました。2012年頃から根ボッケは深刻な不漁が続いてきましたが、2019年には漁模様が回復し、ホッとしています。魚が戻って来たことから、「バキバキ」ブランドの健在ぶりをまたアピールしていきたいと思います。私がおすすめする漁師料理は、ちゃんちゃん焼きです。鮮魚を切り身にして野菜と一緒に鉄板焼きにし、味噌仕立てで食べます。冬の魚はオスが、春の魚はオス・メスともに脂乗りがよく、美味しく食べられます。

網入れからわずか2時間ほどで網揚げします。この日に網を入れた場所は、「陸（おか）」と呼ばれる海岸から特に近いポイントです。

刺し網にかかる根ボッケ。魚の通り道に網を幕のように張るのが刺し網です。網に頭を差し込み抜けなくなります。

一隻に入れる刺し網は500mの長さ。船が港に戻ると、すぐに刺し網を巻き直して、翌日の漁に備えます。

発砲スチロールの箱に並べる際に、一尾ずつ「海峡根ボッケ バキバキ」のブランドを示すタグが付けられます。

海峡根ボッケ バキバキについて